大阪大学RI総合センター同位体化学研究室

研究

当研究室では、放射性元素およびそれらと関連する元素について、錯体化学的な手法を用いて研究を行っています。放射性元素を中心金属にもつ錯体や高配位数を取る超原子価アスタチン化合物は、それ自身の化学的性質の観点からも興味が持たれますし、放射線を利用した核医学的応用も期待されています。また、使用済み核燃料からアクチノイド元素を分離することは重要な課題であるため、+3価のアクチノイドおよびランタノイドを分離するためのキレート剤の開発や、それらのキレート剤が結合した錯体の構造化学的な研究を行っています。

超原子価アスタチン化合物の化学的性質に関する研究

典型元素でも15-18族元素では高酸化状態でオクテット則を破り、超原子価化合物と呼ばれる高配位化合物を形成することが知られています。17族元素の1つであるアスタチンは放射性元素で、その同位体のうちアスタチン-211はα線を放出するため核医学治療への応用が期待されています。しかし長半減期の同位体が存在しないアスタチンは分析手法が限られ、化学的性質が詳しくわかっていません。

アスタチンは同族元素であるヨウ素に比べ高い酸化状態をとりやすいことが近年わかってきたことから、その超原子価化合物の性質を調べることはアスタチンの化学、さらには典型元素化学の理解を深める上で特に重要と考えられます。

当研究室では、アスタチン化合物の中でも+1価の芳香族アスタチン化合物が比較的合成・化合物同定しやすく、またこれが酸化されることで生じる超原子価化合物の性質がヨウ素の同形化合物と比較可能であることに着目し、その酸化還元挙動や安定性について調べる研究を進めています。

α線を用いたガン治療薬のための新しい配位子の開発

特定の部位に集積する放射性化合物を使いガンなどの検出や治療が行われています。その中でも、α線を放出する核種の医学利用が非常に期待されています。 α線は飛程が短いため、ガンに集積させれば、周囲の正常な細胞への影響が少ない有効な治療剤になります。

Ra-223およびその壊変核種は半減期が短く、安定なPb-207になるまで、何回もα線を放出するため、非常に効果的です。2価のRaイオンは骨に集積する性質があり、実際にRa-223を用いた治療薬が臨床利用されています。一方で、Raはイオン半径が極めて大きく、適切なキレート配位子が無いために、更なる応用がしにくい状況にあります。当研究室では、Raを安定にキレートする配位子を新たに合成することを目的に研究を進めています。

ウランが集合したウラニル多核錯体の合成と反応に関する研究

地層処分の安全性の観点から、浅い地層の地下水が示す弱酸性条件でのウランの化学的な挙動について良く知る必要があります。弱酸性条件では、ウランは加水分解反応を起こし、単核、複核、三核のウラニル錯体が生成するともに、それらと酸が反応して化学的挙動は複雑になっています。また、各化合物には、反応できる箇所が多数あることも、その化学反応を詳細に知ることを難しくする要因です。

我々は、反応を単純化できるモデル化合物を用いて、ウラニル同士を架橋している部位へのプロトン付加・脱離反応をNMRを用いて定量的に反応追跡し、その反応が極めて起こりやすいことが分かりました。

レニウム、テクネチウム錯体の発光に関する研究

テクネチウムとレニウムは周期表の第7族の遷移金属元素です。テクネチウムは、体内の画像診断をする放射性医薬品として良く用いられています。しかしながら特定の形の化合物以外の研究はほとんど行われておらず、他の金属元素に比べると錯体化学的な研究はあまり進んでいません。

当研究室では、ニトリド窒素が配位したテクネチウムで初めての発光を示す錯体の合成に成功しました。また同族のレニウムの錯体についても研究を行っており、この錯体が蒸気や粉末混合に応答して発光することを発見しました。現在様々な有機化合物を配位させたレニウム錯体の発光について研究を行っています。

ウランの酸化還元に伴う動的挙動の変化

アクチノイドとランタノイドは周期表ではf-ブロックの元素群に属します。ランタノイドはプロメチウムを除いて全てに安定元素が存在しますが、アクチノイドは全て放射性元素です。また、ランタノイドは一部の元素を除いて、ほとんどが+3価の酸化数のみ安定に存在します。ランタノイドではf軌道の電子は内殻に局在化しているため、配位子が中心金属に及ぼす影響は極めて小さいと考えられています。一方、アクチノイドの前半部分の元素(アクチニウムからプルトニウム)はf電子が外殻にも存在するため、これらの元素の中には酸化還元活性なものがあることが知られています。またf電子が外殻にも存在するため、中心金属イオンが配位子の影響を受けると考えられています。

当研究室では配位子場によるf-ブロック金属の影響を調べるため、+4価と+5価のウランをもつ八配位錯体2種類を合成し、それぞれの錯体の構造異性体を初めて単離・構造決定することに成功しました。

使用済核燃料からのアクチノイド、ランタノイドの分離・回収に関する研究

アクチノイド群の真中あたりに位置するアメリシウムやキュリウムは+3価の酸化数が安定です。これらのアクチノイド元素は、使用済み核燃料に含まれており分離するのが難しく、これらを分離することは重要な課題です。

当研究室では、これらを効果的に分離するための新しいキレート配位子を合成するとともに、それらを用いたアクチノイド同士の分離挙動、ランタノイドとアクチノイドの分離挙動を調べています。また、分離の際の化学種を同定する目的で、これらの配位子が結合した錯体をランタノイドを用いて合成し、その構造を調べています。

 

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