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3.1 製造分離供給

At製造供給

211Atの製造供給

(放射線科学基盤機構)豊嶋 厚史

α線核医学治療法に用いる211Atは、サイクロトロンなどの加速器を用いて人工的に製造する必要があります。例えば、阪大の核物理研究センターでは、AVFサイクロトロンでヘリウム(4He)ビームをビスマス(209Bi)標的に照射し、標的内に分散する形で211Atを製造しています。ただし、質量数が1だけ違う210Atが一緒に製造されると、猛毒である210Poが生じてしまい、医学利用はできません。そのため、4Heビームのエネルギーを精密に制御し、210Atが混じらないクリーンな211Atを製造しています。また、大量の211Atを製造するために必要な大電流の4Heビームでは、照射中に発生する熱によって、揮発性の高い211Atが標的から飛散してしまいます。そのため、照射中は空冷と水冷により209Bi標的を冷やすなどの工夫を施しています。

我々共同研究チームは、211Atを定常的にできるだけ数多く供給するため、核物理研究センターだけでなく、理化学研究所(理研)仁科加速器研究センター、量子科学技術研究開発機構(QST)放射線医学総合研究所、QST高崎量子応用研究所においても211Atの製造をしてもらっています。これらは短寿命RI供給プラットフォームを通して行っています。また、令和元年度~2年度は核物理研究センターの加速器が増強のため停止していますので、理研とMTA契約を締結し、定期的な211Atの供給を受けています。これら全体で、半年間に15回程度の211At供給機会があり、これを利用して順調に各薬剤の開発を進めています。また、211Atは原子核の半減期が7.2時間と短いため製造後には急いで次のステップ(乾式蒸留分離)に移る必要がありますが、上記のいずれの研究所も関東地方にあるため、特別宅配便(チャーター便)により6~8時間と比較的短時間で阪大ラジオアイソトープ総合センターまで輸送しています。

核物理研究センターに設置してある211At製造装置。4Heビームが、写真のビームライン(ダクト)を右から左に向かって進みます。ライン末端のチェンバー(左端)の内に209Bi標的が収められており、照射によって211Atが製造されます。

At乾式分離

211Atの乾式蒸留分離法

(放射線科学基盤機構)豊嶋 厚史

AVFサイクロトロンを用い、ヘリウム(4He)ビームとビスマス(209Bi)標的との核反応によって製造した211Atは、製造後には209Bi標的内に分散しています。この211Atを標識実験や動物実験に用いるためには、209Bi標的や核反応での副生成物などから分離精製する必要があります。

我々は、Atの揮発性の高さを利用し、乾式の蒸留分離法によって211Atを分離精製しています。図1図2にそれぞれ乾式蒸留分離装置の概念図と実際の装置の写真を示しています。Bi標的を石英管に封入し、これを環状炉にセットします。この石英管は細いテフロンチューブに接続されており、揮発した211Atをトラップするためにそのチューブの中間部分が水冷されています。キャリアガスを流しながら環状炉を850度まで加熱すると、211Atは気化して石英管からテフロンチューブへと流れていき、冷却部分で捕集濃縮されます。我々は冷却部分でCdTeZn検出器を用いて211Atの放射線をモニターしており、211Atが十分捕集されるまで加熱を続けています。捕集後には、テフロンチューブに蒸留水100μLを流して211Atを溶かして回収しています。回収率は、流すキャリアガスやガスに含まれる水分量によって差がみられており、現在もまだ様々な条件の検討や装置・手法の改良を続けています。また、溶解する溶液を変えるだけで供給溶液を変更することが可能で、共同研究者の要望によっては、蒸留水以外にもメタノールなどで供給することもあります。
なお、これまで核物理研究センターにも、理化学研究所、QST放医研、QST高崎研で製造した211AtをBi標的から分離した経験があります。

211Atの乾式蒸留分離装置の概念図。
図1. 211Atの乾式蒸留分離装置の概念図。
高レベル実験室1に設置してある211Atの乾式蒸留分離装置。
図2.高レベル実験室1に設置してある211Atの乾式蒸留分離装置。

Ac分離供給

225Acの分離供給

(放射線科学基盤機構)豊嶋 厚史

海外では、α線核医学治療法の研究開発に225Acがしばしば用いられています。我々が主として使用している半減期7.2時間の211Atとは異なり、この核種の半減期は10日と長いため、製造できれば、遠隔地にも供給できるという利点があります。ただし、小型・中型の加速器では製造が難しく、さらに大型の加速器でも核燃料を標的として用いる必要があり、日本での製造に向けてはまだかなりハードルがあります。

しかし、将来的には225Acが利用可能になると期待しており、我々は少量の225Acを用いて薬剤開発や動物実験を進めています。研究の鍵となる225Acは核燃料である229Th(半減期7932年)の子孫核種であるため、この核種を保有していればミルキング法によって得る事が出来ます。しかしながら、229Thや225Acが属する放射壊変系列(ネプツニウム系列)の核種は、地球の年齢に比べるとどれも半減期が短いため、天然には存在せず、かつて人工的に製造されたものが限られた研究施設に保有されているだけです。そこで我々は、その非常に貴重な試料を保有する東北大学金属材料研究所アルファ放射体実験室(仙台)ならびに日本原子力研究開発機構先端基礎研究センター(東海)と共同研究を進めています。これらの研究所で229Thからの225Acのミルキングを行い、これを阪大RIセンター(吹田本館)に輸送しています。また、上記の研究所が合同で行っている233Uから229Thを分離精製する実験にも参画し、貴重試料229Thの増強にも努めています。

東北大学金属材料研究所アルファ放射体実験室にて、229Thから225Acを化学分離する実験器具。
吸引ろ過によってカラム分離を迅速に行っている。