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3.2 標識薬剤やイメージング法の開発

アスタチン化ナトリウム

α線核種アスタチンを用いた甲状腺がん治療(NaAt)

(医学系研究科)渡部 直史

アスタチン(At-211)はヨウ素と良く似た性質を有しており、甲状腺や分化型甲状腺がんに取り込まれます。我々はこの性質に注目し、新たな甲状腺がんの治療薬として(アスタチン化ナトリウム注射液([At-211] NaAt))の製造に成功しました。 1)NaAtを分化型甲状腺がんのモデルマウスに静脈内投与したところ、薬剤は腫瘍に特異的に集積し、明らかに腫瘍サイズが減少しました。1) 今後、従来のβ線治療(I-131)が効かない転移性甲状腺がんに対する画期的な治療となることが期待されています。特に現在のI-131治療では専用病棟への入院が必要になりますが、アスタチンは外来治療が可能です。現在、AMED(日本医療研究開発機構)事業にも採択され、大阪大学医学部附属病院での医師主導治験に向けて準備が進められています。

1) Watabe T, et al. J Nucl Med. 2019

Atアルファメチルチロシン

がん細胞型アミノ酸トランスポーター(LAT1)を標的とした膵臓がん治療

(放射線科学基盤機構)兼田 加珠子

大型中性アミノ酸トランスポーター(LAT1)は、本学医学系研究科の金井好克博士によって発見されたがん細胞型アミノ酸トランスポーターで、がん種を問わず発現している有望ながん治療標的です(図1)。LAT1を標的とした診断用PETプローブの開発も本学で進められています。我々はLAT1へ特異的に取り込まれるアルファメチルチロシンを211Atで標識した、新規核医学治療薬候補(211At-AAMT)を開発しました(図2) 。

図1. LAT1 as a molecular target
図2. Effect of 211At-AAMT

Atフェニルアラニン

アスタトフェニルアラニン(211At-PA)

(放射線科学基盤機構)白神 宜史

最近のがんの治療法の進歩は目覚ましいものがありますが,未だに治療の難しいがんもあります。グリオーマをはじめとする脳腫瘍は,治療の大変難しいがんのひとつです。このようながんの治療にα線核医学治療が有効であると我々は考えています。アスタチン-211(211At)はα線を出す代表的な放射性核種(ラジオアイソトープ)で,半減期は7.2時間です。がん細胞は栄養源としてアミノ酸を積極的に取り込んで増殖します。特にフェニルアラニンは,がん細胞によく取り込まれるアミノ酸のひとつです。

そこで我々はアスタチンで標識したフェニルアラニン(アスタトフェニルアラニン,211At-PA)を製造し,脳腫瘍に対する治療効果を調べる研究を行っています。原料としてボロノフェニルアラニンを用いたところ,アスタトフェニルアラニンが高収率(90%以上)で得られることがわかりました(図1)。この化学反応は,水溶液中,室温下で速やかに進行します。この方法は,アスタチンのように半減期の短いα線核種を医療に用いる際に,実用化に適した方法です。

アスタトフェニルアラニンを脳腫瘍移植マウスの静脈内に投与したところ,腫瘍が縮小し,さらにこの治療効果は1回の投与で30日以上持続しました。

以上の結果より,アスタトフェニルアラニンは脳腫瘍の治療に有望であることが動物実験で証明されました。我々は,引き続きアスタトフェニルアラニンの臨床応用を目指して,医薬品の国際的基準(GMP)に適合する自動合成装置の開発を進めています。

本研究は,国立研究開発法人科学技術振興機構 産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)およびテリックス・ファーマシューティカルズ社(オーストラリア・メルボルン本社)との共同研究による成果です。

出典)Tadashi Watabe, Kazuko Kaneda-Nakashima, Yoshifumi Shirakami, Yuwei Liu, Kazuhiro Ooe, Takahiro Teramoto, Atsushi Toyoshima, Eku Shimosegawa, Takashi Nakano, Yoshikatsu Kanai, Atsushi Shinohara and Jun Hatazawa. Targeted alpha therapy using astatine (211At)-labeled phenylalanine: A preclinical study in glioma bearing mice Oncotarget 2020:11:1388-98

図1. アスタトフェニルアラニン(211At-PA)の製造:A)211At水溶液とBPAの化学反応により211At-PAが得られた。B)高速液体クロマトグラム(逆相カラム)による分析の結果、211At-PAの放射化学的収率は95.9%であった。

図2.アスタトフェニルアラニン(211At-PA)による脳腫瘍移植マウスの治療効果.C6グリオーマおよびGL261移植マウスの腫瘍増殖抑制効果(AおよびB)と,同マウスの体重の経時的変化を示す(CおよびD).*: p<0.05

(A) 分離精製ユニット
(A) 分離精製ユニット
(B) 化学合成ユニット

図3. アスタチン標識医薬品の自動合成装置(実験用自動合成装置 COSMiC®-Mini)

At金ナノ粒子

At金ナノ粒子

(放射線科学基盤機構)角永 悠一郎

図1. 動物実験へ向けた 211At 標識金ナノ粒子の合成計画

本研究では、α線放出核種を投与し、体内からがんにα線を照射して治療するα線核医学治療法の開発を行っています。α線は高エネルギーであり、がん細胞の殺傷能力が高いです。一方で、飛程が細胞数個分と短いため、周辺臓器や正常細胞への侵襲がなく、副作用が少ないです。さらに、短寿命核種であるアスタチン-211 (211At: 半減期7.2時間) を用いることにより、投薬後速やかに体内から放射線源が消失します。そのため、通院による治療が可能であり、がん患者の生活の質 (QOL) の向上が期待できます。

211Atは、ヨウ素と似た性質を持つため、生体内では速やかに甲状腺へ集積します。そのため、211Atをがん細胞周囲に留める方法として、金ナノ粒子に担持させることにしました。金ナノ粒子は、211Atと水溶媒中で混合するだけで標識化が速やかに完了するため、実験操作が簡便です。加えて、毒性の高い試薬なども使用しないため、医薬品への応用に向いています。一方で、211At標識金ナノ粒子の合成例はあるものの、生体内での動態やがん細胞殺傷効果についてはほとんど報告されていません。そこで、様々なサイズの金ナノ粒子を用いて211At標識化を行い、ラットを用いた動物実験によって体内動態やがん細胞殺傷効果の評価を行うことを計画しました (図1)。

これまでの研究成果を以下に示します。まず、金直径13 nm・30 nm・60 nm・120 nm・220 nmの金ナノ粒子を合成しました (図2)。次に、金ナノ粒子の表面にMethoxy PEG thiol (mPEG-SH) 修飾を行いました。その後、mPEG-SH修飾金ナノ粒子の精製を行いました。

図2. 合成した金ナノ粒子のTEM画像
図3. 金ナノ粒子の211At標識化

得られた金ナノ粒子に対し、211At標識化を行いました (図3)。水溶媒中、金ナノ粒子に対し、2.2-2.4 MBqの211Atを加え、5分間振とうさせました。反応後、限外ろ過により溶媒を除去し、ゲルマニウム半導体検出器により211Atの導入率を算出しました。その結果、金直径30 nm から 120 nm の金ナノ粒子において、211At が定量的に導入されたことが確認できました。なお、金直径220 nmの金ナノ粒子では、反応は完了しませんでした。

211At標識金ナノ粒子 (金直径30 nm および120 nm) を用いて、まずはin vitro実験にてがん細胞殺傷効果の評価を行いました。Raji細胞に対し、211At標識金ナノ粒子を加え、24時間後、細胞生存率を確認しました。その結果、両方の金ナノ粒子で、高いがん細胞殺傷効果を評価しました (図4)。

図4. 金ナノ粒子を用いた細胞毒性実験

今後は、がん細胞殺傷効果の更なる向上を目指しています。金ナノ粒子表面を、ポリエチレンイミン・糖鎖・ウイルス様粒子で修飾することにより、211At標識金ナノ粒子の細胞透過性が向上し、更なるがん細胞殺傷効果が期待できます。これらを用いた金ナノ粒子の表面修飾は既に成功しており、現在は、211At標識化の検討を行っています。

At抗体

211At標識抗体

(理学研究科)樺山 一哉

抗体医薬品は、がん細胞などの表面に発現する抗原をターゲットとするため、高い治療効果と副作用の軽減が期待される薬剤です。このような抗体の特異的集積能力とRIによる細胞殺傷効果を組み合わせたものがRI標識抗体療法であり、有望な治療戦略として期待されています。これまでにβ線放出核種を抗体に標識したゼヴァリンなどが実用化されていますが、β線核種の飛程は数mm程度であることから周囲の正常組織にも影響を及ぼしてしまうことが問題となっていました。一方、α線は体内での飛程が細胞1個分程度なので、正常臓器への放射線障害を最小限にとどめることが可能であり、 かつ遮蔽が容易です。従って、これを用いた薬剤が開発できれば特殊な治療病室が不要となり、通院治療が可能になると考えられます。

現在我々は、抗体にα線放出核種の1つであるアスタチン-211(211At)を標識した薬剤の開発と評価を行っています。211Atは半減期が7.2hと比較的短いため、標的型α粒子治療(TAT) に使用するための最も魅力的なα粒子核種の一つです。これまでに難治性がん由来の細胞株を担持したマウスに、幾つかの211At標識抗体を投与する実験を行い、良好な結果を得ています。またこれまでの実験から、従来の化学療法や抗体療法とは異なる作用機序が関与していることが示唆されているため、これを解明する研究も開始しています。

Ac-FAPI

α線核種アクチニウム用いた膵臓がん治療(Ac-FAPI-04)

(医学系研究科)渡部 直史

大阪大学では、独ハイデルベルクとの共同研究によって、多くのがん種の間質に発現しているFAP(線維芽細胞活性化タンパク質: Fibroblast Activation Protein)に注目し、がん間質をターゲットにしたアルファ線治療薬の開発に成功しました。
2) 本治療薬([Ac-225]FAPI-04)を膵臓がんモデルマウスの静脈内に単回投与したところ、腫瘍に選択的に集積し、腫瘍の増殖抑制効果が認められました。2) がん細胞の増殖を支えているがん間質をアルファ線で攻撃することで、治療効果が得られることが世界で初めて確認されました。

がん患者の生存率は全体として上昇傾向にありますが、膵臓がんの5年相対生存率は10%と依然としてかなり低い水準が続いており、既存の治療法の有効性は限られています。今後、本治療薬の最適化を行い、将来的には難治性膵臓がんの患者さんにとって、有効な治療となることを目指しています。

2) Watabe T, et al. J Nucl Med. 2019

Atネオペンチル(千葉大学、東京工業大学)

211At標識薬剤開発

(千葉大院薬) 上原知也、鈴木博元
(東工大物質理工) 田中浩士

α線を放出する放射性医薬品は、従来のβ-線を放出する放射性医薬品よりも高いがん治療効果を示します。我々は現在、核医学治療への応用が期待されているα線放出核種の一つである211Atに着目し、薬剤開発を行っています。211Atを放射性医薬品に応用する場合、がん細胞に親和性を有する分子に211Atを結合させる必要があります。結合した分子により211Atはがん組織まで送達され、その後211Atから放出される放射線により、がん細胞を殺傷します。半減期の短い211Atにより最大限の治療効果を得るためには、211Atを速やかにがん組織に送達する必要があります。、そのためには、がん細胞に親和性を有する分子として、がん組織に速やかに集積する分子サイズの小さい分子が望まれます。しかしこれまでは、サイズの小さい分子に211Atを安定に結合することは困難でした。最近、我々共同研究チームはサイズの小さい分子に対しても211Atを安定に結合することができる新たな結合方法を開発しました。本研究成果を用いて、これまで実現できなかった211Atを低分子化合物に結合した新規薬剤開発を進めています。

イメージング(名古屋大学)

Atイメージング研究

(名古屋大院医)山本誠一、中西恒平

α線核医学治療法に用いる211At化合物の動物実験においては、動物のどの臓器に化合物が集まっているのか、正確に知りたいという要求があります。そのために用いる2種類のイメージング装置の研究開発を行っています。

まず、紹介するのは動物集積した211At化合物を体外から画像化するために、211Atから放出される~80keVのX線を撮像するカメラです。薄いYAPというシンチレータを用いることにより、高分解能、高感度、低バックブランドの画像を得ることができるようになりました(下の図)。

開発している高分解能、高感度なX線カメラ
X線カメラを用いて撮像した211At化合物投与マウスの全身画像

もう一種類の開発している装置は、取り出した臓器の断面画像を撮像するα線カメラです。臓器中の放射能の評価は、井戸型検出器で測定するか、切片を作りオートラジオグラフィーで画像化していますが、臓器内の分布が得られない、あるいは測定に時間がかかるなどの問題点がありました。この問題点を解決するために高分解能α線カメラを開発しています。

薄いGGAGというシンチレータを用いることにより、高分解能で臓器中の211At化合物の分布を得ることができるようになりました。

高分解能α線カメラ
マウスの腎臓の光学画像
腎臓中の211At化合物分布

ハイブリッドイメージング(早稲田大学)

核医学治療薬の「ハイブリッド」広帯域ガンマ線イメージング

(早大理工)片岡 淳、小俣 陽久、藤枝 和也、佐藤 将吾、栗山 映里

2016年に臨床認可された223Raをはじめ、211Atや225Ac, 212Biなど様々なα線治療薬の医学研究が急ピッチで進んでいます。一方で、RI治療薬はその性質上投与が微量であり、体内動態や排泄を直接かつ簡単に可視化する術がありません。さらに、薬剤集積の程度は生体ごとに異なるため、将来の臨床利用では最適な投与量や間隔、副作用の推定が求められます。我々共同研究チームではα崩壊と同時に生ずるガンマ線に着目し、その体内動態を可視化する高感度ガンマ線カメラ(コンプトンカメラ)を開発しました。2017年度より、阪大病院で患者さんを対象とした223Raの臨床試験を進めています。

一方で、アルファ線と同時に生ずるガンマ線は治療薬ごとに様々です。たとえば、223Ra は160keV/270keV/350keVのガンマ線と80keVのX線がほぼ同程度の強さで生じますが、211At では79keVのX線が何桁も強く、570keV/687keV/898keVなどガンマ線の放出は僅かです(図を参照)。逆に、225Ac などではX線の放出がなく、440keVのガンマ線のみが放出されます。コンプトンカメラは高感度かつ広視野を特長としますが原理的に150keV以下に感度がなく、すべての薬剤に対応することは困難でした。そこで、研究チームではピンホールカメラとコンプトンカメラを一台に融合した「ハイブリッド・ガンマ線カメラ」を新たに考案し、50 keV~1MeVの広帯域イメージングに初めて成功しました。

図は阪大ラジオアイソトープ総合センターにて実施したマウスの撮影結果です(211Atを971kBq投与, 約11時間後から撮影)。すべてのエネルギー帯で解像度10°以下(FWHM)を達成し、とくにX線では数分で体内集積が可視化できることを実証しました。今後は、カメラのさらなる高性能化と3次元ステレオ撮影を行い、臨床応用を目指したいと考えています。

211At のスペクトルと、ハイブリッド・ガンマ線カメラによるマウスの撮影結果
211Atは圧倒的にX線が強くピンホールが有利であるが、コンプトンカメラでも集積が分かる)