研究プロジェクト

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3.3 その他の研究

At、Ac、Raの安全研究

短寿命アルファ線放出核種(211At, 223Ra, 225Ac)の合理的規制に関する基礎データの取得

近年、アルファ線を放出する短寿命の放射性同位元素(短寿命RI)によるがんに対する高い治療効果が発見され、223Ra(半減期11.43日)が既に新しい治療薬として実用化されています。それに加えて、現在、211At(半減期7.2時間)、225Ac(半減期10.0日)なども医学応用するための基礎研究が、大阪大学だけでなく世界的に精力的に進められています。近い将来、実用化に向けて薬剤の大量製造、精製分離、標識、輸送等がさらに盛んになると予想されるため、それに伴う作業者や公共への被ばくリスクから、安全を確保しつつ研究開発を支えるため、新たに合理的な短寿命RIの管理方法の開発が必要となっています。そこで、大阪大学では原子力規制委員会放射線安全規制研究戦略的推進事業費(JPJ007057)による委託事業「短寿命α線核種の合理的規制のためのデータ取得による安全性検証と安全管理・教育方法の開発」にて、アルファ線を放出する短寿命RIである211At、223Ra、225Acの合理的な法規制に向けた基礎研究を東北大学、京都大学と共同して実施しました。特に作業者への内部被ばくのリスクに直接関わる水溶液からのRIの飛散および動物実験におけるRI飛散に関する研究を行いました。

211Atは水溶液のpHに依存した飛散率の変化が観測されました。pH7の水溶液に還元剤を加える事で211Atは飛散量が低減しました。
223Raは水溶液中で金属イオンとして存在することから223Ra自体が飛散することは無く、その子孫核種である219Rnがわずかに飛散することが判りました。さらに、223Ra水溶液と211At水溶液からのRIの飛散は、水溶液が、大気に露出している面積に依存することも判明しました。
225Ac水溶液からは子孫核種を含むRIが、ほとんど飛散しない事が判りました。

動物実験で飛散経路として考えられるのは、糞、尿、汗、呼気ですが、11At、223Ra、225Acの呼気からの飛散は非常に低いことが分かりました。 今回得られたデータは、現在、大阪大学が中心になって新たに進められている原子力規制委員会放射線安全規制研究戦略的推進事業費による委託事業「短寿命アルファ線放出核種等の合理的安全規制のためのガイドライン等の作成」に関する基礎的なデータの一つとして、寿命の短いアルファ線放出核種利用における合理的な安全管理・安全規制の方法の構築に役立てられています。

Atの揮発性研究

Atの揮発性に関する研究

(放射線科学基盤機構、理学研究科)豊嶋 厚史、篠原 厚

α線核医学治療法に用いるアスタチン(At)は、短寿命同位体しか持たない放射性元素であり、現在でもその基本的な性質には分からない事が多く残っています。その一つに揮発性があります。Atは揮発性が高い事が知られていますが、一体どのような気体の化合物が形成されるのか、それらは何度で揮発するのかなど、詳細な結果は得られていません。我々は、乾式蒸留法によってBi標的から211Atを分離精製していますが、この揮発性に関する性質を明らかにしなければ、将来的に高度化を進めるのは難しいでしょう。

我々は、211Atの揮発性を調べるための熱クロマトグラフ装置を新たに開発しています(下図)。この装置では、加速器で製造した211Atを含むBi標的を管状炉で高温に加熱し、気化したAt化合物をキャリアガスによって石英管内に(図の左側に向けて)流しています。管状炉から出たAt化合物は石英管内を通過しますが、この石英管には徐々に低温になるよう温度勾配(200℃から-100℃)をかけてあり、At化合物が持つ揮発性に従って特定の温度位置に吸着します。コリメータを付けた放射線検出器を石英管に沿って動かし、211Atの放射線を検出してその吸着位置を決定します。図の下側には、吸着結果の一例が示してあります。At化合物が中心付近に吸着していることがわかります。これまでのところ、条件によっては複数のAt化合物が生成されている事がわかっています。Atは反応性がおそらく高いようで、まだ揮発挙動が安定しない条件もありますが、さらに研究を進めてAt化合物の揮発性(吸着温度や吸着エンタルピー)を明らかする計画です。また、将来的には、別途開発中の飛行型質量分析法やレーザー分光法と組み合わせて、At化合物の同定や分光学的性質の調査などを進めていきたいと考えています。

開発した熱クロマトグラフ装置の概念図。Atは図右側の管状炉で気化した後、左に向かって流れ、温度勾配のかかっている石英管内を通過する。その際、At化合物自身の揮発性に従って、特定の温度で吸着する。下図には、Atの放射線測定により得られた吸着分布を示している。

At化合物分析および物性評価システム

At化合物分析および物性評価システム

(放射線科学基盤機構)寺本 高啓

α線核医学治療法に用いる211Atは、原子核の半減期が7.2時間と短いため、211At原子もその化合物も物性が詳しくわかっていません。とくに乾式分離で抽出されたAt化合物を含む水溶液中に、何がどれくらい含まれているのか全くわかっていません。これらの成分を分析する手法として、クロマトグラフィーが主に利用されていますが、他の手法として分光法と質量分析法があります。我々はレーザー分光法と飛行型質量分析法を駆使して、At化合物を同定・評価する方法を開発中です。
また、フェムト秒レーザーを用いた超高強度レーザー電場によるイオン化により極微量物質の質量分析を行うことを試みています。

可視領域のスペクトルを持つサブ10フェムト秒の極超パルスのレーザーシステムの開発が完了しました。各種、超高速分光(過渡吸収、過渡反射、過渡光電流分光)が行われています。