研究概要

本研究室は、最先端のオリジナル研究教育機器を開発しながら、ものづくりに根ざした物理化学研究を行っています。特に独自の先端機器を開発しながら、原子や分子により構成される粒子ビームが固体表面で引き起こす化学反応素過程について研究し、その制御を目指しています。一方で、粒子ビームを利用したオリジナルの表面分析機器の開発にも取り組んでおり、幅広い意味での表面科学の諸問題の解決を目指しています。

1.配向分子ビーム法による表面化学反応立体ダイナミクスの解明

六極不均一電場を用いて入射分子の回転量子状態を選別し、分子の配向を制御し、表面反応における立体効果について研究を行っています 。
多体系である固体表面に分子が飛来し、化学反応が起こる過程は、分子の吸着・解離・再結合からなります。このとき飛来する分子の保有している初期情報、すなわち、並進エネルギーや内部状態エネルギー(電子状態・振動・回転エネルギー)がどのように反応過程に伝達され最終生成物に至るのか未だによくわかっていません。そういった分子の初期情報が、反応経路入り口の非平衡過程を通してどのように散逸されて反応に至るのかということは、表面化学反応を制御した物質生成において重要となります。

分子ビームと表面反応課程

配向制御と配列制御

表面に衝突する分子の向きを制御(配向制御)した超音速分子ビームを用いて、表面反応の初期過程における反応生成物を追跡することにより表面化学反応立体ダイナミクスを直接観測することを目指しています。これらの超音速分子ビームは分子の内部量子状態がよく制御されているため、通常の分子ビームでは統計的に平均化され見えてこなかったような、分子配向状態に共鳴するような化学反応過程における量子状態効果を捉えることが実験的に可能となります。このような入射分子の量子状態制御に基づく表面化学反応の理解は、界面の機能性の理解を深めるえ上で重要です。表面化学反応立体ダイナミクスの制御は、表面化学反応選択性の観点から重要です。

配列分子線装置

X 線光電子分光(XPS)と配向分子線を組み合わせた図の表面反応解析装置を開発し、配向制御したNO によるSi の酸窒化反応を調べています。N 端衝突で反応性が高い事もわかってきました。

XPSと組み合わせた配向分子線表面反応解析装置


2.シンクロトロン放射光を用いた超音速分子線による表面反応過程の解明

放射光を利用した高分解能光電子分光(XPS)を用いて、表面反応における入射ビームの並進エネルギー効果などの基礎的なメカニズムを解明するだけではなく、さらに薄膜形成技術への応用展開を進めています。
酸化は材料の腐食過程であり、それを防ぐための材料開発や加工法開発が進められています。多くの場合には常温、常圧の条件下での酸化が問題となります。それは、例えば大気中に20%ほど含まれる酸素分子による腐食を思い描いた場合、エネルギー領域で言えばマクスウェル・ボルツマン分布における平均エネルギー25 meV 程度を考えて、その領域の酸素の繰り広げる酸化現象を考慮しておけば大体良いことになります。しかし、長い目で酸化による腐食ということを考えると、常温,常圧の条件下での酸素分子の速度の速い方の裾で起こっている現象も無視できません。特に、活性化障壁の大きな材料では、この高エネルギー領域における酸素分子による酸化がむしろ重要となります。さらに高温・高圧の極限条件下での耐腐食材料開発の観点からも、このエネルギー領域での酸化反応は重要であり、特有の反応過程を見出し解明することが望まれます。
我々は、Cu ならびにその合金であるCu3Au 表面における酸素分子の解離による酸化反応をモデルシステムとして、超熱エネルギー領域(並進運動エネルギーが0.5 eV 以上)の酸素分子を用いて、酸化物生成機構や防腐食作用を調べています。

放射光X線光電子分光と超音速分子ビームを組み合わせた装置

酸素分子による表面酸化および酸化物生成過程は図のような過程と考えています。そこで、図のCu ステップ表面や合金表面を用いて酸化過程を調べています。

表面酸化および酸化物生成過程

Cuステップ面の構造と酸素分子ビーム入射方向

Cu3Au合金

Cu3Au(100)の酸化

3.固体表面の低次元性に起因する相転移現象とその機構の解明

電子系の低次元性にともなう電子―フォノン相互作用を明らかにするとともにそのチューニングを目指しています。
高分解能ヘリウム原子散乱により、水素原子の吸着したMo1-xRex 合金(110)表面のフォノン分散を測定した。コーン異常に起因する巨大なソフト化ブランチを図のように見出しました。

H/Mo0.95Re0.05(100)のフォノン分散とフェルミ面

H/Mo1-xRex(100)のフォノン分散とフェルミ面

このコーン異常に起因するソフト化ブランチは合金の組成に依存しておりチューニング可能で有ることがわかってきました。


4.超低速イオンビームを用いた二次イオン質量分析計の開発とその応用

閾値付近でのソフトなスパッタリング現象を利用した二次イオン質量分析計を開発しています。
図に示す並進エネルギーが100 eV以下の高輝度超低速イオンビームを用いた二次イオン質量分析計を開発してきてます。図に装置の性能を示します。散乱したイオンのエネルギーが分析でき、スパッタリングの閾値近傍での現象を捉えることができます。ソフトなスパッタリングによる質量分析計です。

超低速イオンによる二次イオン質量分析計




 

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